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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)4号 判決

原告

熱田善男

被告

東京都渋谷都税事務所長

長谷川義正

右指定代理人

吉田博明

外一名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六〇年一〇月一一日付けでした過誤納金還付通知処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六〇年五月二〇日、被告の賦課に係る同年度の固定資産税及び都市計画税合計一一万三六四〇円を一括納付した。

2  被告は、同年八月二〇日付けで、前記固定資産税及び都市計画税を合計五万三一二〇円に減額する旨の賦課決定(以下「本件減額処分」という。)をした。

3  被告は、本件減額処分に伴い同年一〇月一一日付けで、還付金を六万〇五二〇円、還付加算金を一五〇〇円とする処分(以下「本件還付」という。)をした。

4  本件還付は以下述べるとおり違法である。

(一) 本件還付の税目は固定資産税となつているが、正しい税目は固定資産税及び都市計画税である。

(二) 原告は、固定資産税及び都市計画税を一括納付して、報償金四二六〇円を受取つたが、本件還付においては報償金の清算がなされていない。

(三) 原告が本件還付を知つたのは通知書到達日である同月一七日である。ところが本件還付に伴う還付金の支払い開始日は同月一一日となつている。本件還付に際しては郵送に要する日数を考慮して支払い開始日を決定すべきである。

(四) 原告は、前記1記載のとおり、過誤納金となつた六万〇五二〇円を一括納付した。ところが被告は、分割納金の場合に適用すべき地方税法一七条の四第三項を適用して分割納付したものとして還付加算金を計算している。

(五) 還付加算金は、同法一七条の四第一項により納付の日の翌日である同年五月二一日から還付決定の日である同年一〇月一一日までの一四四日に対して付されるから、その額は一七四三円であり、本件還付の一五〇〇円は誤りである。

よつて、本件還付の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める(但し、納付の日は同年五月二九日であり、本件還付の日は同年一〇月八日である。)。

2  同4は争う。

三  被告の本案前の主張

1  地方税法一九条の一二、一九条九号、同法施行規則一条の七第四号によれば、過誤納金還付通知処分の取消訴訟は当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができないところ、原告は本件還付についての審査請求をしていないから、本件訴訟は審査請求前置の規定に違反し、不適法である。

2  原告は、本件還付と本件減額処分とは一体の行為であり、訴外東京都知事が本件減額処分についての審査請求に対して棄却の裁決をしていて、本件還付について審査請求をしても棄却の裁決がされることは確実であるから行政事件訴訟法八条二項三号に定める「正当な理由」がある、と主張している。

しかしながら、原告の右主張は以下述べるとおり失当である。

本件還付と本件減額処分とは、その処分の目的、効果を異にする別個の処分である。そうであればこそ、地方税法一九条一号、九号、同法施行規則一条の七第四号において、右各処分について個別の不服申立てが認められているのである。また、行政訴訟においては、当該処分の違法性が訴訟の対象となるところ、これを本件についていえば、本件還付及び本件減額処分は個別にそれぞれの処分の違法性が判断されることになるのであつて、このことは審査請求においても同様であるというべきであるから、当然に、本件減額処分に対する審査請求の裁決と本件還付に対する審査請求の裁決が結論を同じくすることになるものということはできない。

してみれば、審査請求の裁決を経ないことにつき「正当な理由」はないものというべきである。

四  本案前の主張に対する原告の反論

1  本件還付と本件減額処分は、被告が原告に対しなした昭和六〇年度の固定資産税及び都市計画税の賦課決定に関する一つの事件の局面である。本件還付は、手続上本件減額処分の次のステップであり、本件減額処分と本件還付は一体行為である。本件減額処分については、原告は同年一〇月一二日に訴外東京都知事に対し審査請求をなし、同月二三日棄却の裁決がされているのであり、それにより本件還付についても審査請求が前置されていると解すべきである。

2  また、本件減額処分の審査請求においては、本訴で原告が請求原因として主張している事由を、主たる違法事由として主張しているところ、訴外東京都知事は審査請求を棄却しているから、原告が本件還付について訴外東京都知事に審査請求しても、棄却の裁決を受けることはほぼ一〇〇パーセントの確率で推定できるので、本件還付については裁決を経ないことにつき「正当な理由」がある。

理由

一本件訴えは、本件減額処分に伴い生じた過納金に関する還付である本件還付について、これを抗告訴訟の対象となる行政処分であるとして、その取消しを求めるものである。

そこでまず、本件還付が行政処分に当たるかにつき判断する。

地方税法は、地方団体の長は、過誤納に係る地方団体の徴収金(過誤納金)があるときは、遅滞なく還付しなければならないものとし(同法一七条)、過誤納金を還付する場合には、同法の定める起算日から還付のため支出を決定した日までの期間の日数(場合により一定期間を控除されることがある。)に応じ、その金額に年七・三パーセントの割合を乗じて計算した金額(還付加算金)をその還付すべき金額に加算しなければならないものとしている(同法一七条の四)。そして、右にいう過誤納金とは、地方団体の徴収金としていつたん納付又は納入(以下単に「納付」という。)をされたもので、納付の当初からそもそも納付の義務が存在しなかつたものである誤納金と納付のときには、申告、課税処分等により一応納付の義務が存在していたが、後にその義務に係る徴収金の額を減額する課税処分等がされた結果、納付の義務の一部又は全部が消滅することによつて生ずる過納金とを含むものであり、いずれにせよ、地方団体としては、これを保有する理由を有しないものである。また、還付加算金は、本質的には還付すべき過誤納金に対する利息ないし遅延損害金の性格を有するものである。

本件還付は、過納金に係るものであるところ、過納金は、申告、課税処分等により一応確定した徴収金の額について、後にこれを減額する旨の課税処分等がされた場合に生ずるものであるが、還付すべき過納金の額自体は、当初の徴収金の額と後の課税処分等による徴収金の額との差額であつて、後の課税処分等がされたときに、行政庁による格別の認定判断を経ることなくいわば機械的に定まるものということができる。しかして、地方税法が、行政処分であることが明らかな納付の後にされる課税処分等とその処分の結果いわば機械的に定まる過納金の還付とを明確に区分の上それぞれを別個の行為とする法的な仕組みを設けていることは、先に述べたところから十分に看取し得るところであり(この点、例えば、地方税法一二二条の三第一項、六〇一条七項、六九九条の一四第六項、同条の一五第一項、七〇〇条の二一の二第一項、同条の二二第四項、七〇一条の五〇第三項、七〇三条の三第三項の場合のように、徴収金の額を減額する課税処分等を経ずに還付がされる場合すなわち右課税処分等と還付とがいわば一体となつている場合とは仕組みが異なる。)、このような仕組みからすると、地方税法は、右の課税処分等に加えて更に右の還付をも行政処分としているものとは到底解されず、過納金の還付を請求する権利は、右の課税処分等がされたときに、具体的請求権として確定し、右還付は、単にそれを支出する手続に過ぎず、それによつて初めて過納金の還付請求権が確定するものではないと解するのが相当である。そのすると、過納金の還付それ自体は、国民の権利又は法律上の利益に何ら影響を及ぼすようなものとはいえないから、行政処分に当たらないものと解するほかない(先に述べた地方税法一二二条の三第一項等に定める場合の還付は、申告、課税処分等により一応確定した徴収金の額を直接減額するものであるから、それにより還付請求権が具体化されるものであり、行政処分に当たるものと解される。)。

なお、過納金の還付に当たり、これに還付加算金が付されるところ、還付加算金の計算の基礎となる期間の日数について法律上の判断を必要としないとはいえないが、還付加算金の本質は先に述べたように還付すべき過納金に付帯する利息ないしは遅延損害金ともいうべきものであり、右の法律上の判断もさほど困難なものとはいえないから、過納金の還付に還付加算金が付されるからといつて、過納金の還付を全体として行政処分に当たるものと解さなければならないということはできない。

また、地方税法一九条九号、同法施行規則一条の七第四号は還付に関する処分につき行政不服審査法による不服申立てを認めているが、右規定は、先に述べた行政処分に当たる地方税法一二二条の三第一項等に定める場合の還付に適用されるもので、行政処分には当たらない過納金の還付の場合には適用がないものと解される。

以上によれば、本件還付は抗告訴訟の対象となる行政処分ということはできない。(なお、本件還付に不服のある場合は、行政主体を相手方として、不服額につき支払を求める給付訴訟を提起すべきである。)

二よつて、原告の本件訴えは、不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官塚本伊平 裁判官加藤就一)

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